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コラム『カナダに暮らす。カナダを楽しむ。』

第9回
冬の終わりの憂鬱は、
芸術と旅で回避!
〜J-F.ラポルトによる今冬2作品レポート〜

カナダからこんにちは!
少し久々の更新になりました。

5月の日本は初夏のような陽気の日もあって、外出が楽しい時期ですね。そんな中、タイトルのようにまだ冬の話題をして季節外れですみません…。

でも私の暮らすモントリオールでは、4月、5月でもまだ完全に春とは言い切れないような日もあるのです。

11月から始まる長い冬にはウンザリ。4月に入ると、さすがに雪の日は滅多になくなりますが、通りには雪が解けて隠れていたゴミがあらわになるし、雨が多いのもこの時期の特徴だそう。

歩き始めて2ヶ月の娘
▲3月のあくる日の娘。歩き始めて2ヶ月、雪道はまだ難易度高い…。公園も凍っていてまだ遊べないよ。

春らしい春になりきれないこの時期、憂鬱な気分にならないように、それぞれの回避法を持たないといけません。例えば、モントリオールには、大人も子どもも気軽に楽しめるイベントがたくさんあるのでお勧めです。

私の現代音楽家であるカナダ人パートナーも、冬の終わりに、モントリオールのアートスペースで開催したおもしろい仕事があり、娘と私も参加して楽しんできました。

さて今回は、その2つのイベントについてレポートします。

金属板とダンス、
4つの楽器のコラボレーション

1つめは、現代音楽とダンスの競演 <Inside your bones>。
2月27日、モントリオールのスペクタクル地区にあるダンス施設、ワイルダー・エスパス・ダンス内「アゴラ・ド・ラ・ダンスAgora de la danse」で行われました。

ワイルダー・エスパス・ダンス
▲現代的でおもしろい建築のワイルダー・エスパス・ダンス。

このプロジェクトは、私のパートナーであるジャン=フランソワ・ラポルトと、フランスの地方都市ポワティエに拠点を置く現代音楽団体「アルス・ノヴァ Ars nova」とのコラボレーションで実現したもの。

アルス・ノヴァのアートディレクター兼指揮者、ジャン=ミカエル・ラヴォワは、モントリオール大学で教鞭をとるカナダ人であります。その縁もあって、彼からポワティエ出身のダンサー、バンジャマン・ベルトランとのショーを創り上げてほしいとの依頼で始まった企画です。第1回目の公演は、モントリオールにて、そして第2回目の公演は、ポワティエで行われました。

インサイド・ユア・ボーンズInside your bones
▲トロンボーン、ダンス、金属板。ライティングも効果的で、美しいショーでした。

ジャン=フランソワ・ラポルトが奏でるのは、金属板を使った創作楽器。これについては、第5回の記事で詳しく紹介したので、そちらを参照ください。 >第5回「都市のリズムを体感、カナダの現代音楽イベント」
今回のショーでは、音響装置が取り付けられた12枚の巨大な金属板の反響音に、トロンボーン、クラリネット、ヴィオラ、サクソフォンの音が加わります。そこに、バンジャマンのコンテンポラリーダンスが展開されるというもの。

観客は、ステージ外の観客席に着席するのではなく、楽器やダンスのまわりを自由に移動できます。金属板の反響音は、ステージ上の位置によっても聴こえ方が変わってくるので、さまざまな音色を楽しめるのです。ある人は、移動するダンサーに付いて鑑賞したり、またある人は、会場の端で座って目を閉じて聴いたり。

ヴィオラとダンスの掛け合いも迫力のある場面
▲ヴィオラとダンスの掛け合いも迫力のある場面。すぐそばで鑑賞できるのも魅力的でした。

時に激しく、時に繊細で内省的なダンス。体の芯に響くような金属板の低音に加え、それぞれの楽器が金属板を通して反響し合う音。これらが見事に融和して、幻想的でドラマティックなショーとなりました。

各地区で気軽に
アートを楽しめる文化施設

さて2つめは、2月〜5月にかけて2箇所で展示された、創作楽器のインスタレーションについて。

展示が行われたのは、いずれもモントリオールに数多くある市立の文化施設。現在19あるモントリオールの行政区に各1つ以上設置されていて、市民はもちろん、誰でも気軽に利用できるようになっています。

2017年に新設されたヴェルダン地区の文化館Quai 5160
▲2017年に新設されたヴェルダン地区の文化館Quai 5160は、サン=ローラン河沿いに位置する市民の憩いの場。(Quai 5160公式Facebook画像より)

劇場や音楽ホール、またそれらに図書館や展示スペースなどが併設された複合施設もあり、いつも国内外のアーティストが、さまざまなパフォーマンスや講演・講座などを行っているのです。

入場料はいずれも5〜15カナダドル(約400〜1200円)程度。無料のイベントや子供向けのイベントも充実しているので、老若男女問わず、多くの人が訪れます。

35本チューブの
インスタレーション <気 Qi>

さて、今回のラポルトの創作楽器の展示は、ヴェルダン地区の文化館 Quai 5160(2〜3月)と、ポワント=オ=トロンブル地区の文化館Maison de la culture(3〜5月)にて開催されました。

吊り下げられた35本のチューブが並ぶ幻想的な空間01
▲吊り下げられた35本のチューブが並ぶ幻想的な空間。

音響装置が取り付けられた35本の透明のチューブによるインスタレーション、<Qi>。日本語の「気」を意味するその名の通り、長さのさまざまなチューブに空気が送られることで音が奏でられます。コンピューターによってリズムがコントロールされていて、軽やかで心地の良い音が響き渡ります。

チューブの細部。
▲チューブの細部。

青い光が放つ不思議な空間に、透き通る多数のチューブが並ぶ様子は、視覚的にも美しく印象的。

そんな非現実的な雰囲気の中、子どもたちは、チューブの間を喜んで歩き回ったり、また大人たちは、何かを感じとるかのように目を閉じて聴き入ったり。長時間じっと座り続けている人もいました。

吊り下げられた35本のチューブが並ぶ幻想的な空間02
▲入場無料の展示だったこともあり、学校のグループも多数訪れていました。

芸術と旅で憂鬱から逃げる!

今回の2つの作品はいずれも、目にも耳にも、そして心にも新しい体験のできるものでした。評判も高く、特に<Inside your bones>は、今後ヨーロッパ各地で演じられる予定です。

4月にはフランス・ポワティエでの公演を終えてきましたが、私たち母娘も冬の明けきらないモントリオールを離れて、春満開のヨーロッパに滞在してきました。目下、私たちの冬の鬱憤回避法は、こうした芸術で心を満たされるか、いっその事、寒さから逃れて旅に出る、といったところです。

さすがに5月に入って、モントリオールの木々も芽吹いてきました。次回は、初夏らしい話題ができますように…!

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