第1回写真家、ガーデナーになる。
はじまりは、イングランド南部の海辺の街
1999年にイングランド南部の海辺の街にフラットを借りて移転した。ブリティッシュカントリーサイドを撮影するのが目的だった。
契約していたエージェントがアメリカの会社と提携して、イギリスの田舎のイメージがアメリカでは売れるらしい、ということになった。
デジタル以前、そこの写真が欲しければ撮影しに行くのがあたりまえだった頃のこと。
観光名所ではないふつうの田舎のイメージが撮りたかった。
まず、解体屋の脇に595ポンドのプライスを掛けて置いてあったプジョーのステーションワゴンを買った。
車の登録は意外とスムーズで空港で借りたレンタカーと入れ代わりにプジョーに乗って、辺りを片っ端から撮影して廻った。
ブリティッシュカントリーサイドの風景
イギリスの田舎というのは、木を伐ったところに牧草地や放牧地を生垣で区切り、少し残しておいた森の近くに屋敷を作り、これらが連続している。
それが何百年にもわたって変わらぬ彼らの美意識などによって維持管理されてブリティッシュカントリーサイドの風景ができあがっている。
彼らは自分たちがつくったこの風景に誇りを持っている。
植民地を盛大に拡げた時代には世界中にこの風景を生みだした。
ある英国貴族の屋敷に招かれたアメリカの富豪が、庭で芝生の手入れをしていた庭師に、どうやったらこの見事な芝生になるのかを訊ねた。
「芝を刈ってローラーをかけるんです。」
分かりきったことを云われたアメリカ人が少しむっとして、今度は小遣いを握らせて更に訊ねるとニヤッとしながら、
「芝を刈ってローラーをかけるんです。それを毎日欠かさず500年経つとこうなります。」と答えたという話。
ノバスコシアオーガニックスがつくられているカナダ東海岸のNOVA SCOTIA州も、かつてスコットランドから渡った人たちによってブリティッシュカントリーサイドの風景がつくられているのではないかと想像している。
ファームショップとの出合い
カントリーサイドを走っていると、
【~farm shop】という看板にたびたび出くわす。
入ってみるとファームで生産されたチーズやヨーグルト、クリーム、肉や卵、野菜などが売られていた。
直売所的な小さなところから、オーガニックフード全般を仕入れて併せて販売しているちょっとした”オーガニックスーパーマーケット”まで様々な規模とスタンスのファームショップがある。
カフェを併設しているところも多い。
夢中になったファームショップ巡り
もともと食べること、自分で料理することが好きだったので、すぐにファームショップ巡りに夢中になった。
看板を見れば必ず立ち寄り、わざわざ出かけるお気に入りのファームショップもいくつかできた。
スーパーマーケットでの買い物とは格別だった。
それぞれのファームの特色がはっきりわかる。
支払った金額の殆どが生産者の財布に入る。
食材を求めるときに最も大切な”クオリティ”を直接自分で確かめ、そのクオリティに対してお金を払うことが非常に嬉しく愉快だった。
そして豊かなことだと感じた。
野菜を自分でつくれるようになりたい
そして季節が一巡りした頃にちょっとした縁があり訪ねたガーデン(イギリスでは野菜をつくっている農場をガーデンという)の野菜が非常に美味しくてしょっちゅう通うようになった。
やがてこういう野菜を自分でつくれるようになりたいと憧れた。
ここから写真家がガーデナーになるストーリーが始まります。
イングランドのガーデンのことから、2007年東京に戻ってからの農業とのかかわり、そして2016年から長野で始めたメディシナルハーブ(薬草)の栽培等々についてを連載させていただきます。
どうぞお付き合いくださいませ。